近年、レトロな雰囲気が漂う昔ながらの居酒屋が再注目されています。懐かしい温かさに包まれた空間で味わうお酒と料理は、格別なものです。
そんな古き良き居酒屋の魅力を再発見させてくれるのが、居酒屋探訪家・太田和彦氏による書籍「日本居酒屋遺産 東日本編」です。 本書では、著者が厳選した東日本15軒の居酒屋を、美しい写真と情緒あふれる文章で紹介しています。 本書の特徴は、単に美味しい料理やお酒を提供する店を紹介するのではなく、歴史ある建物を含めた居酒屋全体の雰囲気、すなわち「居心地」を重視している点にあります。
書籍の基本情報
項目 | 内容 |
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著者 | 太田和彦 |
出版社 | トゥーヴァージンズ |
出版年 | 2022年 |
ページ数 | 223ページ |
サイズ | A5判並製 |
価格 | 2000円+税 |
書籍の内容
本書では、「創業が古く昔のままの建物」「代々居酒屋を続けている」「老舗でも庶民の店を守っている」という3つの条件を満たした居酒屋を「日本居酒屋遺産」として選定し、その魅力を余すところなく伝えています。 単なる飲食店の紹介にとどまらず、その建物の歴史や、店主や客との交流、そしてそこに流れる独特の空気感までもが活写されています。
著者は、長年居酒屋探訪を続けてきた経験から、古い居酒屋が持つ魅力は、酒や肴だけでなく、建物が醸し出す居心地の良さにあると述べています。 「居酒屋の『居』は居心地の『居』、居場所の『居』。」という言葉通り、長年多くの人々に愛されてきた居酒屋は、訪れる人にとって、まるで自分の家にいるかのような安心感と癒しを与えてくれる場所なのです。
太田氏は、もともと建築に興味があり、1969年に資生堂宣伝制作室に入社して上京した際、東京に残る明治時代の洋風建築に感銘を受けました。 休日はそれらの建物を巡り、広告物の撮影場所として借りることもあったそうです。 そんな太田氏が居酒屋探訪を始めたのは40歳を控えた頃。 銀座や六本木で業界仲間と飲むことが多かった当時、ふと立ち寄った月島の居酒屋で、古き良きノスタルジーに魅了され、居酒屋探訪にのめり込んでいったといいます。
紹介されている居酒屋
本書で紹介されている居酒屋は、北海道から静岡まで、東日本各地に点在しています。 以下に、その一部をご紹介します。
- 独酌三四郎(北海道旭川市): 創業1953年。旭川で最も古い居酒屋の一つ。店内はカウンター席のみで、一人でゆっくりと酒を味わいたい人に最適。 凛とした静寂の中で、自分と向き合いながらお酒を楽しむことができる、まさに「独酌」のための空間です。
- 久村の酒場(山形県酒田市): 創業明治26年。酒田の老舗酒場。店内は歴史を感じさせる佇まいで、地元の常連客で賑わっている。 長年地域に愛されてきた、温かい雰囲気の中で、地元の人々との交流を楽しむことができます。
- 源氏(宮城県仙台市): 創業1952年。仙台の老舗居酒屋。名物は、創業以来変わらない秘伝のタレで焼き上げる焼き鳥。 香ばしい焼き鳥の香りに包まれながら、昭和の時代にタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。
- 大はし(東京都足立区千住): 創業明治40年。千住の老舗居酒屋。名物は、煮込みやもつ焼きなど、昔ながらの酒場の味。 下町の活気を感じながら、どこか懐かしい味わいの料理を楽しむことができます。
- みますや(東京都千代田区神田): 創業明治38年。神田の老舗居酒屋。名物は、新鮮な魚介類を使った料理。 旬の魚介を、落ち着いた雰囲気の中で堪能できます。
- 赤津加(東京都文京区外神田): 創業は昭和26年。カウンター席とテーブル席があり、一人でもグループでも楽しめる。
- 鍵屋(東京都台東区根岸): 創業は文化・文政年間という老舗中の老舗。建物は関東大震災や東京大空襲の被害を免れた。
- ふくべ(東京都中央区八重洲): 創業は昭和初期。東京駅八重洲口からほど近い場所にある。
- 岸田屋(東京都中央区月島): 創業は大正12年。月島もんじゃストリートから少し離れた場所にある。
- シンスケ(東京都文京区湯島): 創業は昭和10年。湯島天神の近くにある。
- 伊勢藤(東京都新宿区神楽坂): 創業は明治40年。神楽坂の芸者衆にも愛された店。
- 斎藤酒場(東京都北区上十条): 創業は昭和13年。カウンター席と小上がりのみというシンプルな造り。
- らんまん(東京都中野区中野): 創業は昭和34年。中野駅北口から徒歩5分。
- 銀次(神奈川県横須賀市): 創業は昭和27年。どぶ板通りにある。
- 多可能(静岡県静岡市): 創業は明治28年。静岡おでんの老舗。
レビューと評価
本書は、居酒屋好きはもちろん、歴史や文化に興味がある人にも楽しめる内容となっています。 読者からは、「まるで自分がその場にいるかのような臨場感がある」「紹介されている居酒屋に行ってみたい」「古き良き日本の文化を感じることができる」といった声が寄せられています。 妹尾河童氏の一連の著作を彷彿とさせるペン画も魅力的です。
まとめ
「日本居酒屋遺産 東日本編」は、単なる居酒屋ガイドブックではなく、日本の文化や歴史、人々の暮らしを感じることができる一冊です。 本書で紹介されている店は、いずれも長年地域に根ざし、人々に愛されてきた、まさに「遺産」と呼ぶにふさわしい居酒屋ばかりです。
本書を手に取り、古き良き居酒屋の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。そして、本書を参考に、実際に居酒屋を訪れてみてください。そこには、温かい雰囲気、美味しいお酒と料理、そして、人と人との触れ合いが待っています。
近年、再開発やチェーン店の増加により、昔ながらの居酒屋は姿を消しつつあります。本書で紹介されているような、歴史と伝統を受け継ぐ居酒屋を訪れることは、日本の文化に触れる貴重な体験となるでしょう。
ぜひ、あなただけの居酒屋探訪に出かけてみてください。それぞれの居酒屋で、異なる歴史や文化、そして人情に触れることができるはずです。