2012年、DJ ShadowとCut Chemistという、ターンテーブリズムの頂点に立つ二人のDJが、「Renegades of Rhythm」と題されたプロジェクトを始動させた。
1970年代後半、ニューヨーク・ブロンクス区において、ヒップホップ文化は誕生した。Afrika Bambaataaは、この文化形成における中心的役割を担った人物の一人である。DJ、プロデューサー、そしてZulu Nationの創設者として、ヒップホップ黎明期に多大な貢献を果たした。
加えて、社会的なメッセージを込めた楽曲制作、ギャング同士の抗争を鎮めるための平和的活動などを通して、ヒップホップ文化の社会的意義を高めることにも尽力した。
Bambaataaは、40年以上にわたり、膨大な数のレコードを収集してきた。そのコレクションは、ヒップホップの起源から発展に至るまでの音楽的変遷を辿ることができる、貴重な音源資料であると言える。
Renegades of Rhythmでは、このコレクションの中から、ヒップホップ誕生以前のファンク、ソウル、ディスコ、ロック、ラテン、アフロビートなど、多岐にわたるジャンルのレコードを厳選。
DJ ShadowとCut Chemistは、これらのレコードを用い、BambaataaのDJスタイルを忠実に再現しつつも、彼ら独自の解釈を加味することで、革新的なパフォーマンスを創出した。
Renegades of Rhythmのパフォーマンスは、2台のターンテーブルとミキサーのみを使用し、一切のコンピューターやデジタル機器を用いないスタイルで行われた。
彼らは、高度なスクラッチ技術、ビートジャグリング、そしてサンプリングテクニックを駆使し、レコードをあたかも楽器のように操る。さらに、彼らは単なる模倣に留まらず、独自の音楽的解釈を加えることで、Bambaataaの音楽を現代に昇華させた。
DJ Shadowの卓越した構成力、Cut Chemistの精緻なスクラッチ技術、そして両者の音楽的感性が融合することで、歴史的価値と現代性を兼ね備えた、比類なきパフォーマンスが実現したと言えるだろう。
彼らのパフォーマンスは、ヒップホップの起源と発展を再考させ、その文化的・音楽的意義を再評価する契機となった。
また、Bambaataaのレコードコレクションを広く世に知らしめ、ヒップホップ文化の保存と継承にも大きく貢献したと言えるだろう。
DJ ShadowとCut ChemistによるRenegades of Rhythmは、単なるDJパフォーマンスの枠を超越した、ヒップホップ史へのオマージュである。
彼らは、Bambaataaのレコードコレクションという文化的遺産を通して、ヒップホップのルーツと進化を再解釈し、現代に提示した。
このプロジェクトは、ヒップホップ文化の深淵さと多様性を示す、重要な試みとして、音楽史に刻まれるであろう。