G SPIRITS BOOKシリーズについて
「G SPIRITS」は、辰巳出版が刊行するプロレス専門誌です。そのムックシリーズである「G SPIRITS BOOK」は、プロレスの歴史や文化、人物などを深く掘り下げた書籍を刊行しています。「1954 史論―日出ずる国のプロレス」は、このシリーズの第20巻として出版されました。
本書の基本情報
著者: 小泉悦次
出版社: 辰巳出版
発売日: 2024年9月20日
言語: 日本語
ページ数: 344ページ
ISBN-10: 4777829626
ISBN-13: 978-4777829620
内容の概要
1954年は、力道山が日本にプロレスを輸入してから70周年を迎えるメモリアルイヤーです。本書は、まさにその1954年の日本のプロレス界に焦点を当て、黎明期を詳細な史料に基づいて分析した歴史ノンフィクションです。
本書では、1954年の日本のプロレス界を、以下の3つの大きなテーマを中心に据えて考察しています。
- アメリカのプロレスはどのように日本に輸入されたのか?
- なぜ日本でプロレス人気は爆発したのか?
- 力道山vs木村政彦戦は、なぜ喧嘩マッチになったのか?
これらのテーマを解き明かすために、GHQ、政財界、裏社会、新聞社、相撲界など、当時の社会情勢を幅広く取り上げ、プロレス界との関わりを深く掘り下げています。
特に、「なぜ日本でプロレス人気は爆発したのか?」という問いは、本書の重要なテーマの一つです。力道山が活躍した時代は、戦後復興期であり、人々は敗戦による喪失感や経済的な苦境に直面していました。 そのような状況下で、力道山が外国人レスラーをなぎ倒す姿は、日本人に勇気と希望を与え、国民的ヒーローへと押し上げました。 本書では、力道山の活躍が、当時の社会状況や人々の心理とどのように結びついていたのかを深く考察しています。
加えて、本書はプロレスに関する歴史論を展開している可能性も示唆されています。 これは、当時のプロレスが、単なるスポーツやエンターテイメントを超えた、社会的な意味合いを持っていたことを示唆しており、興味深い点です。
1954年の日本のプロレス界における重要な出来事
1954年は、力道山が日本プロレスを旗揚げした翌年にあたり、プロレス人気が爆発的に高まった時期です。 力道山は、その圧倒的な強さとカリスマ性で、国民的ヒーローへと昇りつめていきました。
この年には、日本テレビがプロレス中継番組「三菱ダイヤモンドアワー プロレスリング中継」を開始しました。 テレビを通して力道山の試合が全国に放送されるようになり、プロレス人気はさらに加速しました。街頭テレビに人々が集まり、力道山の雄姿に熱狂したというエピソードからも、当時の熱狂ぶりが伺えます。
黎明期のプロレスにおけるバトルロイヤルの役割
本書では、ミルドレッド・バーク一行の日本ツアーについて触れられています。 ミルドレッド・バークは、1930~50年代に活躍したアメリカの女子プロレスラーで、女子プロレス界のパイオニア的存在です。彼女が率いる一座の来日は、日本のプロレス界に大きな影響を与えました。
当時のプロレス興行では、バトルロイヤルという試合形式が人気を博していました。 バトルロイヤルは、複数のレスラーがリング上で同時に戦い、最後まで残った者が勝者となるというものです。観客を熱狂させるために、ベビーフェイスとヒールの団体戦のような形式で行われることもありました。
史論の展開
本書では、力道山や木村政彦といった個々のレスラーだけでなく、彼らをとりまく社会状況や時代背景にも目を向け、プロレスという興行が日本でどのように根付いていったのかを多角的に分析しています。
力道山は、戦後日本の国民的ヒーローへと昇りつめていきました。力道山が外国人レスラーを倒す姿は、敗戦による劣等感を抱えていた日本人に勇気を与え、熱狂的な支持を集めました。 これは、当時の日本社会が抱えていた、敗戦による喪失感やアイデンティティの喪失といった問題と深く関わっています。力道山の活躍は、人々に希望を与え、 national pride を回復させる役割を果たしたと言えるでしょう。
力道山と木村政彦の試合は、単なるプロレスの試合を超えた、日本の格闘技界における覇権争いという側面も持ち合わせていました。 木村は、戦前から戦後にかけて柔道界で無敵を誇った伝説的な柔道家です。力道山との試合は、「柔道vsプロレス」という構図で注目を集め、国民的な関心事となりました。
関連書籍・資料
本書の内容をさらに深く知りたい場合は、以下の書籍や資料も参考になるでしょう。
- 力道山の生涯を描いた伝記
- 1950年代のプロレス界を扱った書籍
- 当時の新聞や雑誌の記事
プロレス史研究における本書の位置づけ
本書は、1954年の日本のプロレス界を詳細に分析した貴重な研究成果です。力道山や木村政彦といったスター選手だけでなく、当時の社会状況や時代背景にも目を向け、プロレスという興行が日本でどのように発展していったのかを多角的に考察しています。
本書は、従来のプロレス史研究では見過ごされてきた視点や史料を提供することで、1954年のプロレス界をより深く理解することを可能にしています。力道山という国民的ヒーローを生み出した時代背景、そしてプロレスが社会に与えた影響などを、多角的な視点から分析することで、プロレス史研究に新たな光を当てています。
まとめ
「1954 史論―日出ずる国のプロレス」は、力道山時代の熱狂を、詳細な史料に基づいて読み解く歴史ノンフィクションです。力道山や木村政彦、ミルドレッド・バークといったスター選手たちの活躍、そして彼らをとりまく社会状況や時代背景を深く理解することができます。
本書を読むことで、1954年のプロレス界が、単なるスポーツやエンターテイメントの枠を超えた、社会的な意義を持っていたことが分かります。力道山が国民的ヒーローへと昇りつめていく過程は、戦後日本の復興と希望を象徴するものであり、現代社会においても重要な示唆を与えてくれます。
プロレスファンはもちろん、歴史に興味を持つ人にとっても、読み応えのある一冊です。
目次
- プロローグ 日本で最初の女子プロレスラー・猪狩定子の回想
- 第1章 「日本の敗戦」と「世界のプロレス」
- 第2章 なぜプロ柔道は失敗に終わったのか?
- 第3章 パン猪狩がパリで見た「レッスルする世界」
- 第4章 関脇・力道山の「大相撲廃業」と「プロレス転向」
- 第5章 1952年、それぞれのアメリカ武者修行
- 第6章 1953年7月30日、日本プロレス協会が発足
- 第7章 プロ柔道出身たちと猪狩一座のプロレス
- 第8章 力道山の第二次アメリカ武者修行
- 第9章 日本プロレスの旗揚げシリーズが成功した理由とは?
- 第10章 日本のプロレス創成期を支えた顔役
- 第11章 ミルドレッド・バーク一行の日本ツアー
- 第12章 力道山vs木村政彦戦は八百長か、真剣勝負か?
- 第13章 “昭和巌流島の決闘”を「プロレス」として読み解く
- エピローグ