古き良き居酒屋の佇まい、そこに集う人々の温かさ、そして歴史を感じさせる逸品の数々。そんな、日本の居酒屋文化を愛する人にとってたまらない一冊が、太田和彦氏著「日本居酒屋遺産 西日本編」です。単なる居酒屋紹介にとどまらず、文化遺産としての居酒屋の価値を再認識させてくれる、まさに「居酒屋遺産」の名にふさわしい内容となっています。
本書の概要
「日本居酒屋遺産 西日本編」は、居酒屋探訪家として知られる太田和彦氏によって執筆され、2023年6月19日にトゥーヴァージンズから出版されました。 太田氏は1946年北京生まれ、長野県松本市出身のアートディレクター兼作家です。 資生堂宣伝制作室やアマゾンデザインを経て、東北芸術工科大学教授も務めました。 本業のかたわら、居酒屋探訪をライフワークとし、長年日本全国の居酒屋を訪ね歩き、その魅力を多数の著作やテレビ番組で伝えてきました。
「日本居酒屋遺産 西日本編」では、「創業が古く昔のままの建物」「代々居酒屋を続けている」「老舗でも庶民の店を守っている」という3つの条件を満たした店を「日本居酒屋遺産」として選出し、紹介しています。 西日本編では、愛知、京都、大阪、島根、福岡、大分、沖縄、そして東日本編に収録できなかった東京の居酒屋遺産とあわせて、11軒の名店が紹介されています。 400点以上の写真に加え、著者自身による居酒屋の建物イラストも掲載されており、その店の魅力を視覚的に楽しむことができます。
西日本編で紹介されている居酒屋
「日本居酒屋遺産 西日本編」では、以下の11軒の個性豊かな居酒屋が紹介されています。
店名 | 所在地 | 特徴 |
---|---|---|
大甚本店 | 愛知県名古屋市 | 創業は1910年。コの字型のカウンターと、歴史を感じさせる佇まいが魅力。名物はどて煮込み。 |
赤垣屋 | 京都府京都市 | 創業は1923年。木造2階建ての京町家で、京料理の影響を受けた繊細な料理が楽しめる。 |
神馬 | 京都府京都市 | 創業は1928年。鴨川沿いに佇む、風情ある建物が特徴。 |
京極スタンド | 京都府京都市 | 創業は1935年。コの字型のカウンターと、リーズナブルな価格設定が魅力。 |
明治屋 | 大阪府大阪市 | 創業は1925年。銅製の自動燗付器で燗をしたお酒が味わえる。 |
田吾作 | 島根県益田市 | 創業は1935年。山陰地方の新鮮な魚介類を使った料理が楽しめる。 |
おでん安兵衛 | 福岡県福岡市 | 創業は1932年。屋台から始まった、福岡を代表するおでん屋。 |
酒房 武蔵 | 福岡県北九州市 | 創業は1945年。小倉の旦過市場近くにある、昔ながらの居酒屋。 |
こつこつ庵 | 大分県大分市 | 創業は1952年。様々な年代物で埋め尽くされた、独特の雰囲気が魅力。 |
うりずん | 沖縄県那覇市 | 創業は1974年。沖縄の伝統的な建物を利用した、落ち着いた雰囲気の居酒屋。 |
さいき | 東京都渋谷区 | 創業は1951年。恵比寿横丁にある、昭和レトロな雰囲気が漂う居酒屋。 |
居酒屋遺産の魅力
「日本居酒屋遺産 西日本編」で紹介されている居酒屋の魅力は、美味しい酒や料理を提供するだけではありません。古き良き建物の雰囲気や、そこに集う人々の温かさ、そして歴史を感じさせる空間こそが、これらの居酒屋を特別な存在にしています。
文化遺産、自然遺産、産業遺産など、「遺産」と呼ばれるものには、今その価値を保護しないと消滅する危惧のあるもの、長い歴史を経てできたもので再現できないもの、という共通点があります。 そして、そのようなものだからこそ価値があるのです。 「日本居酒屋遺産」もまた、戦前~昭和前期に創業し、古い建物を維持し、長年人々に愛されてきたからこそ、現代において「遺産」としての価値を持つと言えるでしょう。
例えば、大阪の「明治屋」では、創業当時から使われている銅製の自動燗付器で燗をしたお酒を味わうことができます。 大分県大分市の「こつこつ庵」は、様々な年代物で埋め尽くされた、まるで博物館のような店内が特徴です。 このような、歴史を感じさせる空間で過ごす時間は、格別なものになるでしょう。
西日本の居酒屋文化
「日本居酒屋遺産 西日本編」を読むことで、西日本の居酒屋文化の奥深さを知ることができます。西日本の居酒屋は、地域ごとに特色があり、それぞれの土地の文化や風土を反映した個性豊かな店が多いことがわかります。
例えば、京都の居酒屋では、京料理の流れを汲む繊細な料理や、町家の雰囲気を活かした空間を楽しむことができます。 一方、沖縄の居酒屋では、泡盛や沖縄料理を楽しみながら、ゆったりとした島時間を過ごすことができます。
読者の声
「日本居酒屋遺産 西日本編」は、居酒屋好きはもちろん、歴史や文化に興味がある人からも高く評価されています。 読書メーターに寄せられたレビューでは、「渋くて味のある居酒屋がたくさん載っている」「まさしく日本の宝」「お店のそれぞれの歴史が面白い」といった声が挙げられています。 また、「豊富なカラー写真に、著者の手書きスケッチ画も楽しい」といった、本書のビジュアル面を評価する声も聞かれます。
関連書籍
太田和彦氏は、「日本居酒屋遺産」シリーズ以外にも、多くの居酒屋関連の書籍を出版しています。 例えば、「ニッポン居酒屋放浪記」「居酒屋百名山」「居酒屋おくのほそ道」「居酒屋かもめ唄」「東京居酒屋十二景」「居酒屋道楽」「月の下のカウンター」「居酒屋を極める」「ひとり旅ひとり酒」「飲むぞ今夜も、旅の空」「居酒屋と県民性」「酒と人生の一人作法」などがあります。 これらの書籍も、本書と合わせて読むことで、日本の居酒屋文化への理解をさらに深めることができるでしょう。
まとめ
「日本居酒屋遺産 西日本編」は、西日本の魅力的な居酒屋を美しい写真と文章、そして手書きのイラストで紹介してくれるだけでなく、文化遺産としての居酒屋の価値を再認識させてくれる一冊です。単なる居酒屋ガイドブックではなく、そこに込められた歴史や文化、そして人々の想いを伝えてくれる、奥深い内容となっています。
本書で紹介されている居酒屋を訪れれば、きっと、その土地の歴史や文化に触れ、そこに暮らす人々の温かさに触れることができるでしょう。そして、古き良き日本の居酒屋文化を、未来へと繋いでいくことの大切さを実感できるはずです。
「日本居酒屋遺産 西日本編」を片手に、酒と歴史の旅に出かけてみてはいかがでしょうか。